「死んだと思いました」
立ち尽くした少年は、茫然とそう告げる。
「俺もだよ」
溜め息と共に告げる。少年の顔色は蒼白を通り越して尚白い。
まさかエリダナ四大咒式士に数えられるジオルグが、交通事故で死に掛けるなど誰が想像できただろう。
「あの人は」
白い唇で、少年は言葉を綴ろうとする。しかし何かが痞えたようにまた俯いた。
俺はその様子を注意深く見守る。ジオルグ不在の今、少年の自殺癖にブレーキをかける役目は俺のものだと思っている。クエロは病院でジオルグに付き添っているし、ギギナは知らん。
「……危なっかしいです」
「お前に言われたくはないだろうよ」
握った拳までが痛々しく白く、まるでジオルグが失った分の血を自分もまた失ったかのようだ。
「不相応な発言をしてしまったので死にま」
「没収」
何らかの錠剤を口に含もうとしたので奪い取る。ストラトスは恨めしげに俺を見た。
「ガユスさんは」
「なんだよ」
「万一……」
ストラトスはまた言葉に詰まる。訥々と話すこの少年には珍しいことだ。
「所長が死んだら、どこに行きますか」
「……、」
見上げるストラトスの瞳はどこまでも陰鬱に漆黒だった。ストラトス以外の数法系咒式士をじっくりと観察したことはないが、奴らは瞳に宇宙でも飼っているんじゃないだろうか。ぞっとするほど空虚な深さがそこにあった。
「お前は、どうするんだ」
「今までと何も変わりません。私はいつでもどこでも死にたいのです」
「じゃあ」
それは結果的に、自分も死ぬと言っているようなものではないのか。いつでも死にたいと言いながらも、ジオルグの生きている今、ストラトスもまた生きている。ジオルグが死ぬと同時にストラトスが死んだとしたら、そこには因果が産まれるのではないのか。
「本来ならば、とっくに死んでいたはずなのです」
「じゃあどうして生きているんだ」
否。とっくに因果は産まれているのではないのか。
ぬるり、と彼の黒い双眸は白い建物を見上げた。俺もそれに倣う。四角く切り取られた窓から白いカーテンがはたはたと覗いていた。
「死んだかと思いました」
風に嬲られてストラトスの黒い毛先が揺れていた。俺達はジオルグが死ぬなんて考えたこともなかった。だから生きているのだともあえて考えたことはなかった。
ジオルグは今生きているし、いつか死ぬかもしれない。それはごく当たり前のことで、俺だってクエロだってストラトスだってギギナだってそうだ。当たり前のことだ。
「死なないとも、思っていました」
因果だ。その当たり前のジオルグの生を見出したことで、そこに因果があることに俺達は気付いてしまっていた。
ジオルグが生きていて、それとはまた別の事項としてストラトスが生きているのではない。ただ彼らが生きている、それだけなのかもしれない、と思った。意味は分からなかった。ただ、立ち去ろうとするストラトスをこのまま追いかけたとして、俺にストラトスの生死を左右することはないだろうということだけはなんとなく分かっていた。